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鹿児島地方裁判所 昭和36年(わ)297号 判決 1961年10月02日

被告人 平良義春 外三名

主文

被告人平良義春を懲役六月に処する。

被告人真境名米子を懲役一〇月に処する。

被告人前城功を懲役六月に処する。

被告人米村広一を懲役六月に処する。

被告人平良義春、同前城功、同米村広一に対し、この裁判確定の日から各一年間右各刑の執行を猶予する。

被告人真境名米子に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

押収してあるスイス製腕時計九個(証第一号)を被告人真境名米子同前城功から没収する。

被告人真境名米子から金一〇〇、一一〇円を追徴する。

被告人真境名米子、同平良義春、同前城功から各金七四九、七六〇円を追徴する。

被告人真境名米子、同平良義春から各金二八一、一六〇円を追徴する。

被告人真境名米子、同前城功から各金四、四七三円を追徴する。

被告人米村広一から金六六五、四一二円を追徴する。

被告人平良義春、同前城功に対し、各仮に右各追徴に相当する金額を納付することを命ずる。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人真境名、同平良、同前城は、別紙犯罪表記載のように単独又は共謀の上、同表記載の各犯行日頃、鹿児島市汐見町の鹿児島港に入港した沖繩、鹿児島間航行の定期船那覇丸から、有税貨物である同表記載の各貨物を、所轄税関である長崎税関鹿児島税関支署に輸入申告をせずに着衣の下に隠匿などして鹿児島市に陸上げして保税地域より本邦に引き取り、もつて各不正の行為により同表記載の関税額を各免かれ、

第二、被告人米村は、昭和三六年七月二一日同被告人の肩書自宅において、被告人真境名から、スイス製男物腕時計エニカ二三石一四二個が不正の行為により関税を免かれて輸入された貨物であることの情を知りながら、これを代金四七五、七〇〇円で買い受けて取得し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法律の適用)

法律に照らすと、判示第一の各所為は、各関税法第一一〇条第一項第一号(共同正犯の点につき刑法第六〇条をも適用)に、判示第二の所為は、関税法第一一二条第一項、第一一〇条第一項第一号に該当(いずれも罰金等臨時措置法第二条をも適用)するので、各所定刑中懲役刑を選択し、被告人平良、同真境名、同前城の以上の各所為は、各刑法第四五条前段の併合罪であるから各同法第四七条、第一〇条により、被告人平良、同真境名、同前城につき順次犯情の最も重いと認める判示第一の別紙犯罪表3、5、5の各罪の刑に各併合罪加重をし、その各刑期範囲内で、右被告人三名を主文第一項ないし第三項の刑に各処し、被告人米村に対しては、所定刑期範囲内で、同被告人を主文第四項の刑に処し、各刑の執行猶予につき各同法第二五条第一項を適用して、主文第五項、第六項のとおり定め、押収してあるスイス製腕時計九個(証第一号)の没収につき関税法第一一八条第一項本文を適用して、主文第七項のとおり定め、犯罪貨物中没収することができない場合の追徴につき各同法条第二項を適用して主文第八項ないし第一二項のとおり定め、被告人平良、同前城に対しては、判決の確定を待つては右各追徴の執行をするのに著るしい困難を生ずる虞れがあると認め、各刑事訴訟法第三四八条に従い、職権で右両被告人に対し、主文第一三項のとおり、仮に各追徴に相当する金額を納付すべきことを命ずる。

なお、当裁判所は、検事の判示第一別紙犯罪表5の腕時計一〇〇個について被告人真境名、同前城から各四六八、六〇〇円を追徴すべきであるとの意見にもかかわらず、これをしなかつたのであるが、次にこの点についての見解を示す。

関税法第一一八条第二項には、没収すべき犯罪貨物等を没収することができない場合等における「犯人」からの追徴を規定しているが、この「犯人」に共犯者を含むと解さなければならないことは疑いのないところであり、かなり多くの判例の示すところである。そして文理上からすると、右の「犯人」には、共犯者でない当該犯罪貨物にかかる同条所定の犯罪者全部を無条件に含ませて、その全員から追徴しなければならないと解釈すべきであるかのようである。しかし、共犯者でない別個の罰則違反者と当該共犯者とを併せた全員から、犯罪貨物の所有権の所在等を無視して追徴することも、また共犯関係に立たない当該犯罪貨物にかかる別個の罰則違反者から、各自独立に追徴することも、ともに正当を欠くというべきである。さらに、追徴は、没収の趣旨を貫ぬくための代替処分であるから、没収する場合における不利益以上のものを犯人に加えるべきではないのであつて、同条の追徴されるべき犯人の範囲は、これらの制限にしたがつて合理的に決せられなければならない。

たとえば、密輸入者甲から犯罪貨物を知情有償取得した乙がまだ右貨物を所有しているときは、甲は、乙の共犯でもなく、かつ、現在の所有者でもないのであるから、当該貨物を甲乙両名から没収すべきではなく、乙から没収すべきものであると考える。かりに甲乙両名から没収することができると解しても、不利益を受けるのは乙だけであつて、甲の当該貨物売却による取得対価は、刑法第一九条第一項第四号、第一九条ノ二を適用しない限り、関税法第一一八条によつては剥奪することができないのであるから、もし甲が乙に当該貨物を売却し、さらに乙が同貨物を転売したときにおいて、没収に代えて甲乙両名から同貨物の価格を各追徴するならば前示没収の場合との均衡を失するにいたるというべきである。この場合においても甲乙は、追徴債務につき連帯関係に立つから、国家は、二重取りをすることにはならないという見解があるが、甲乙は、共同正犯でも、対向犯でも、その他の共犯でも、共同不法行為者でもないのであるから、民法第七一九条の思想を類推することは不適当であるし、また関税法第一一八条第二項の「犯人から追徴する」との文言から、論理必然的に両者が連帯関係に立つと解されるかどうかも甚だ疑問といわなければならない(もつとも、右の例で乙が何人であるか確定できない場合またはすでに乙に対して犯則事実が認定されながら追徴が言い渡されなかつたことの認められる場合等においては、密輸入者である甲――所有者又は占有者であつた者――から追徴すべきものと解するのが相当である。)。したがつて乙が、甲と共に起訴されて、当該貨物の没収または追徴を言い渡される状態にあるときは、乙から没収または追徴すべきで、同法条により甲から没収または追徴すべきではないと解すべきである。

本件犯罪表5の貨物は、全部関税逋脱犯人である被告人真境名から犯罪貨物の運搬等の犯人である被告人米村に売却されて同人の所有に帰し、さらに他(上田某が実在者か否か不明である。)に転売されて没収することができないので、被告人米村に対して同貨物を含めた腕時計一四二個分の追徴を命ずることができるだけであると解するのを相当とする。

かようなわけで被告人真境名、同前城に対しては、同表5の貨物につき関税法第一一八条第二項による追徴の言渡しをしない。そして被告人真境名及び同米村の各供述から認められる同貨物の買受価格、売却価格、利潤並びに被告人真境名、同前城の犯罪動機、犯情、改悛の情、資産、他の犯罪貨物についての追徴総額等にかんがみて、同被告人らに対しさらに刑法第一九条第一項第四号、第一九条ノ二を適用しないこととする。

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判官 櫛渕理)

(別紙犯罪表略)

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